拙著『すごい読書術』で、「長い時間かけて1回読むよりも、短い時間で3回繰り返し読むほうが記憶定着しやすい」と書いています。
読書法や勉強法ジャンルの本を見ていると、大半の本には反復学習に関することが書かれています。
では繰り返し読む際、具体的にどのくらい間隔を空ければいいのでしょうか?
ちょっと前にSNS(確かTwitterだったはず…)で、こうした疑問点が挙げられているのを見かけたことがありました。
振り返ってみると、確かにこれまで説明していたようで説明していなかった内容でしたので、今回はこの点についてご紹介いたします。
最も記憶定着しやすくなる反復学習とは?
結論から言うと、私が意識しているサイクル期間は以下となります。
【復習サイクルの一例】
1回目:読んだ翌日
2回目:読んだ1週間後
3回目:読んだ2週間後
4回目:読んだ1か月後
1回目の「読んだ翌日」というのは、レミニセンス効果を狙ったものです。
レミニセンスとは、簡単に言うと「睡眠時に脳内で情報が整理される」ことです。
例えるならば、「ごちゃごちゃになった机を片付けて、スッキリした状態でもう一度作業しましょう!」といった感じですね。
2回目以降空ける期間は、エビングハウスの忘却曲線に基づいて考えたものです。
エビングハウスの忘却曲線は、簡単に言うと「情報を記憶して、時間が経過する前に復習するほど、再学習しなければならない情報量は少なくなる」というものです。
一度勉強して、長い時間を空けてしまうと初めて勉強したときと同じくらい労力がかかってしまい、逆に時間を空けず、毎日同じ内容をずっと勉強していると、忘れたところを再度勉強する部分が少なくて済む、ということで、つまり反復学習の効率が良くなることを意味しています。
実際には受験生でない限り、間髪入れずにずっと勉強することは非現実的なので、間隔は空きつつも、なるべく再学習する量を減らすことを考えると、2~3回目は1~2週間程度の間隔をあけるのがいいのかな、と私は考えています(ここは経験則)。
※レミニセンス効果やエビングハウスの忘却曲線の詳細は、過去にブログで書いてありますので、参考にしてください。
(レミニセンス現象から考える記憶や暗記に対する速読の活かし方)
https://limixceed.co.jp/blog/archives/2034
人間の脳は「必要だ」と判断された情報しか記憶されない
4回目の反復学習サイクルは「読んだ1ヶ月後」としています。
これもまた脳の特徴に基づいた考え方によるものです。
新しくインプットされた情報は最初、脳内の海馬という場所に入ります。
海馬は入ってきた新しい情報が記憶する必要のあるものか判断し、必要だと判断された情報だけ大脳皮質に送り込みます。
大脳皮質とは情報を長期記憶(忘れない記憶)として保持する部分です。
※海馬と大脳皮質のイメージに関しては、以下のページを見ていただければ^^
http://www.scj.go.jp/omoshiro/kioku3/kioku3_1.html
このように、インプットした情報は一旦海馬に蓄積されるわけですが、海馬に情報が留まっていられる時間は長くても1ヶ月と言われています。
そのため、1ヶ月の期間内でそれが「記憶する必要のある情報だ」と脳に認識させる必要があるのです。
そういう意味では、
「記憶する必要がある情報は何か?」
例えば自分にとって
「既に記憶定着している知識は何なのか?」
「覚える必要のある情報は何なのか?」
を予め明確にしておくと、さらに記憶定着は図りやすくなるとも考えられます。
余談というか、私は脳医学の専門資格を持っているわけではないので、個人的な意見になりますが、1ヶ月という期間については、経験的な知見から考えると、私は「3週間のほうがしっくりくるなあ…」という気がしています。
習慣化する方法の一つとして、「インキュベートの法則」というものがあります。
これは「21日間継続すると、やっていることが意識的→無意識に変わって習慣化する」というものです。
この法則に対しては「21日じゃ無理で66日だ」とか「そもそも日数で限定できない」など、様々な論調がありますが、個人的に実践している感覚としては、3週間という区切りはしっくりくるものがあると思っています。
いずれにしても1ヶ月前後のタイミングで再学習する意味はあることになりますが、専門論文で真逆の論調が複数ある状態はよくあることなので、こうした情報はあくまでも一つの基準として、最終的には自分に合ったやり方を優先することが重要かなと思います。
覚えるべき情報は何なのか?
話が逸れてしまったので、元に戻します。
当然といえば当然ですが、すでに知っている知識が多いほど、同じ文章を読んでいても高い理解を得ることができます。
だとすると、理解力を上げたいのであれば、覚えるべき情報は「まだ知らない知識」となります。
たとえば、既存知識が全くないのであれば、誰かがオススメする難解な本を無理に読むよりも、入門書レベルの本を読んだほうがいいということです。
逆に、ある程度の既存知識がある分野であれば、たとえば目次構成を見るなどして、既に知っている部分とまだ知らない部分を予め明確にしてから本を読んでいくと効率が良くなるのです。
これは資格試験の勉強を考えると分かりやすいかもしれません。
資格試験を受ける際、多くの方は過去問を解くと思います。
この時にやっていることは、出題傾向を知るなど様々な目的がありますが、その一つに「今の時点で自分が持っている知識量がどのぐらいなのか」をチェックしている面もあるのです。
正解できたところは「既に持っている知識」、間違えたところは「覚えるべき知識」となります。
このように自分が覚えるべき「まだ知らない知識」の場所をはっきりさせることで、文章理解力はアップするのです。
発想力の面で理解力を上げたいならば
文章理解という言葉が出ましたが、「理解」には二つの意味があると私は考えています。
一つは先程のような例にあったような「知識が定着する」意味での理解です。
そしてもう一つは、「発想や閃きを得る」意味での理解です。
後者は知識が定着していることが前提となる上での理解となります。
たとえば課題に対する解決策を考えるとき、 その発想やアイデアは基本的にゼロからいきなりパッと生まれるものではなく、これまでの既存知識を掛け合わせて生まれる場合がほとんどなのです。
身近な例で言えば、今となってはスマートフォンは一般的になりましたが 元々はPDAというものがありました。この既存技術を基に、たとえばタッチパネルの制度を向上させたり、パソコンの延長線と考えずタッチパネルの見た目に基づいた操作性などを掛け合わせたこと等、様々な改善が加えられてスマートフォンが生まれました。
つまり革命的な技術であっても、スタートは既にある知識から始まっているのです。
このように考えると、第三者が勧める本ばかり追いかけて知識定着の理解を求めるよりも、基本的な知識から徐々に積み上げていく意識を持つことが重要になります。
特にネットが普及した今、世の中のすごい人を見かける機会が増えた影響か、そうした人と同じになった気になって、基本的な知識を学ぶ段階を飛ばしたいという気持ちになる人が多くなっている気がします。
自己成長で比べるべき相手は、世の中のすごい人ではなく、現時点での自分自身です。
今の自分よりも一歩でも成長できていれば、それは成長できていることになります。
実は記憶定着や理解力アップにとって最も重要なスキルとは、「他人と比べた背伸びをしないこと」なのかもしれませんね。
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